【MCI対LIV】プレスvsビルドアップ
プレミアリーグ1位2位の対決、新年早々激アツな試合を制したのはマンチェスター・シティでした。
シティ目線でこの試合のビルドアップ、プレスを徹底解剖したいと思います。
スタメン
シティのビルドアップとリヴァプールのプレス
プレスの構造を利用したビルドアップ
リヴァプールの守備の構造と穴
リヴァプールのプレスの特徴は「コンパクトさ」にある。ボールサイドに多く人数をかけてブロックの中にボールが入れば一気に圧縮してボールを刈り取る。
シティはその「コンパクトさ」を利用した。
リヴァプールはボールサイド側にブロックの軸(基準)をずらして守備をする。つまりボールと逆サイドのサイドレーンが空いてくる。そこへCBからロブパスで簡単に前進していた。
しかし、リヴァプールと対戦するチームにこんなシンプルにボールを動かせるチームは滅多にいないように思える。それはロブパスを蹴る余裕もないのだ。3トップのプレッシャーはかなり速い。では、なぜシティにはそれができたかを分析する必要があった。
1stDFがプレッシャーをかけられない理由
今回の試合を観た人の多くが、青20ベルナルドが青25フェルナンジーニョの脇に降りてくることには気付いただろう。その動きが鍵を握っていた。
青20が降りることで三角形の数が1つ増える。よって赤9に対して青5,20,25と3対1、赤10マネに対して青5,20,3と3対1が作れる。
赤9フィルミーノがプレッシャーをかけたとしても壁パスを使って背後にボールを送ることが可能に。青20を経由した壁パスを防ごうと赤10が絞れば、青3がフリーになる。
リヴァプールの多様なプレス
リヴァプールはそういったジレンマを解決できるプレスも持っていた。
赤10に青20へのパスコースを絞って消す。当然ボールは青3へ。そこで赤7ミルナー(IH)がSBへプレッシャーをかける方法だ。
シティはこれに対して、赤7がいたスペースに青9が降りてくるわけだが、赤14ヘンダーソンのスライドで対応。
この局面に関してはリヴァプールのほうが機能していたと思う。シティは青7スターリングへ縦パスを当てて、個人としてプレスを掻い潜っていたので再現性は低かった。
フォーメーション上の穴を利用したビルドアップ
デザインされたビルドアップ
リヴァプールの守備の配置は1-4-3-3。構造上、SBの前、中盤3枚の脇が空いている。そこにどうボールを送るか、グアルディオラはうまくそれをデザインしていた。
鍵となったのは、やっぱり青20ベルナルドだった。青20のもうひとつの役割が赤7を食いつかせること。そうすればSB前のスペースを広げることができる。
問題は、そこに誰が入ってくるか。きっと多くのチームがここで誤りを犯した。
リヴァプールのDF陣の役割として、
SB:WGにマンマークして前を向かせない
CB:SBがマンマークして出ていったスペースをスライドで埋める
そしてWGが前を向かせてもらえずプレスバックに捕まってショートカウンター、という流れは嫌というほど目に浮かぶ。
これをグアルディオラは見抜いた。そして利用した。
SB前で受けるのはWGではなく青10アグエロ。WGはSBをピン留めしておく役割。普段からCFについていくことがCBはないので、青10がここで多くボールを受けていた。赤4ファン・ダイクが何回かついていき、青10を潰すシーンはあったが多くはなかった。
ライン間のポジショニングが与えた影響
青4→25→14の壁パス、SBがフリーでボールを運べたシーン。
左右で異なった役割のシティ、青21D.シルバは基本的に高い位置(ライン間)にいることが多かった。
リヴァプールのハイプレスが失敗し、撤退する中で青21が敵中盤ラインの背後にいることで赤5ワイナルダム、赤14ヘンダーソンが釣られて必要以上に下がってしまった。
そのFWとMFの間の大きなスペースにアグエロが降りてボールを受けた。
直接、ビルドアップに関わったわけではないが、今後、使えそうな局面だな、と思ったので紹介しました。
フォーメーション変更後にピッチで起きたこと
57分ごろに追いかけるリヴァプールは1-4-2-3-1へフォーメーションを変更。赤11がCB間にポジションを取る。赤9は青25のパスコースを切る。
当然、シティのビルドアップも変わってくる。
フォーメーション上、空くのがCF脇(赤11脇)、ST脇(赤9脇)だ。そこをうまく利用して前進したいシティだが、なかなかうまくいかない。
57分から90分までの間に相手を動かして、うまく前進したのは数回だった。
赤9脇を使って、赤14を引き出す。そして赤14のスペースへボールを送る。そこで受けるのはやっぱりアグエロだった。
リヴァプールのビルドアップとシティのハイプレス
シティの積極的なハイプレス
シティのプレス構造
青21が飛び出て青10と2トップの関係をつくる。青25と青20で2IH、1-4-4-2かと思いきや...
青20はバランスをとって真ん中へ。WGが少し絞る。青25は青20と縦関係になるようにポジションを取る。1-4-1-3-2のような形になった。
サイドで3対2を作り、チャレンジ&カバー、カバーシャドウを駆使、豊富な運動量でリヴァプールに前からきつめのプレス。SBはWGへマンマークでついていく。
リヴァプールは蹴らざるを得ない状況に。
リヴァプールが使いたいシティの穴
リヴァプールが使いたいスペースとして、縦関係になっている青20,25の脇だ。
一度だけうまくビルドアップできていたシーンがあった。
赤5がCB-SB間に降りてボールを受ける。連動してSBは高い位置へ。空洞化された中盤に赤9が受けに降りてくる。
青19サネが赤66と赤5、どっちにつくか迷ってしまう状況だった。
また、17分のマネが抜け出してシュートがバーに直撃した決定機も青20,25の脇を使ってからの展開であった。
メリットが多かったフォーメーション変更
リヴァプールが1-4-2-3-1にフォーメーションを変えたことでプレスの面でシティに対してうまくビルドアップさせなかったが、ビルドアップの面でもメリットがあった。
シティの1stプレッシャーはミラーになっていた。1-4-2-3-1に変えたことで青20が1人で2人(赤3ファビーニョ赤14ヘンダーソン)見なければならなくなり、プレスの無効化に成功していた。
60分あたりからリヴァプールがボールを持つ時間が増えたのは、フォーメーションを変えたことによりプレス、ビルドアップの両方でこのような効果があったと見て間違いないだろう。
シティとナポリの違い
ここで私の中で一つの疑問が浮かんだ。
CLGS第6節 リヴァプール対ナポリ、ナポリがらしさを全く出せなかった試合だったが、いったいどこに違いがあったのか。
大きく2つの違いを見つけることができた。
GKへサポート(GKの位置)とGKのビルドアップ力
エデルソンとオスピナ、この2人のビルドアップ力に違いがあった。
次の2つの画像を見てもらいたい。(両方、青がシティ、ナポリ)
注目してほしいのはGKとCBで成される角度だ。シティはほぼ180°に近いがナポリは90°、それより小さいかもしれない。
すると、GKからCBへパスが送られたときに体の向きを変える必要がある。そのコンマ何秒でプレスにかかるか、前進できるかに繋がると考えた。
また、このシーンを見て感じたのがCBの位置が高いのではなく、GKの位置が低いのではないか、という点。
それはビルドアップ力の違いが明確に現れているシーンではないだろうか。
次はアランがCB間に降りて3バックを形成しているシーン。
シティはここにフェルナンジーニョが降りていただろうか?
いいや、降りていない。じゃあ誰が?「エデルソン」だ。
つまり、シティは1人人数を浮かした状態でビルドアップできていたのだ。
これは『偽GK』と呼べるのではないのだろうか。
パスの動かし方
守備の基準を定めさせないボール回し
ナポリの試合を見直して思ったことが、パスの動かし方だ。ナポリはGKからスタートしCBへパスが出る。リヴァプールは守備の基準をボールサイドへ寄せる。そこでナポリはボールサイドのSBへ出すことが多かった。ここでシティさえも攻略できなかった(人数が多いのでできないとも言える)プレス発動。慌てて縦へ送るもボールは相手へ、という流れが多かった。
要するに相手の守備の基準と同じサイドでボールを回すのどんなチームでも難しい、ということ。
シティがボールを持っているとき、CB同士でのパス交換が多いと感じなかっただろうか?そこには守備の基準を揺さぶり続ける、という狙いがあった。徹底して相手の守備の基準の逆を攻めよう、という狙いが一試合通して見ることができた。
それは右サイド(ベルナルドのサイド)で壁パスをしながら敵を集める。守備の基準をより右サイドへ寄せて、サイドを変える。これが徹底されていた。
集めて展開、集めて展開。
これって基本ではないだろうか?
相手のベクトルの逆をつくパス
もう1つはバックパスの使い方。ボールを回すチームの基本として、「相手のベクトルの逆をつくパスを出す」というものがある。その判断1つでプレスにかかるか、回避できるかは大きく変わる。それがとてもうまい選手はバルセロナのブスケツやチェルシーのジョルジーニョだ。
今回シティがうまく前進できたのはその相手のベクトルの逆をつくパスを使う場所がうまかった。
中盤の脇やWGでカバーシャドウされているSBへボールを送る、緻密にデザインされたビルドアップもそのあとのパス選択次第でミドルサード、ファイナルサードにボールを運べるか、ボールが奪われるか、が変わる。
そのあとのパス選択とはリヴァプールのプレスバックに対してだ。そこでシティが選択していたパスはバックパス。プレスバックの方向と逆(自ゴール方向)へボールを送る。プレスバックで相手が下がったため、CB前にスペースがある。あとは運べば、前進できる。
感想
世界のトップレベルの戦いでも、基本に忠実にプレーすればあのリヴァプールにも十分ボールを繋ぐことができる。それだけ基本は大切だと再認識できた試合だった。
また、ラポルト、ストーンズのビルドアップ力は凄まじいな、と。パス、判断はもちろん、味方のサポートが間に合わないときに相手の逆を取るドリブルで時間をつくるテクニック。そんな技術も指導できるグアルディオラはやっぱり世界最高の監督だと思った。
ボリスタの西部謙司さんの記事の「技術の足りないポジショナル派はストーミング派に淘汰される、ポジショナルプレーを『戦術』と捉えるチームは出口を失う、この概念を活かすも殺すも『技術』に懸かっている。」という言葉を思い出しました。
最後まで見て頂きありがとうございました。